バーボンとテネシーウイスキーの違い

ウイスキー

アメリカンウイスキーは、アメリカで造られるウイスキーの総称です。世界5大ウイスキーの1つにも数えられ、その味わいにはスコッチやアイリッシュウイスキーとも異なる温かみや親しみやすさがあります。

もともとアメリカにウイスキーの蒸留技術をもたらしたのは、17世紀後半~18世紀にかけて東海岸に入植したヨーロッパやスコットランド、アイルランドからの移民たち。その後、アメリカが西へ西へと開拓を進めていったように、アメリカにおけるウイスキー造りも原料や製法などを独自に開拓していき、自らのアイデンティティを確立していきました。アメリカンウイスキーには、そんな“フロンティアスピリッツ(開拓者精神)”が宿っています。

アメリカンウイスキーの味わいの特徴である香ばしさや甘さ、力強い風味は、原料と水、蒸留度数、熟成樽に由来します。

国土の広大なアメリカではさまざまな穀物が収穫されるため、ウイスキーの原料もトウモロコシ、大麦、ライ麦、小麦と多様です。

また、世界の多くのウイスキーが軟水で仕込まれるのに対し、アメリカンウイスキーは一般的に硬水で造られます。特にバーボンの一大産地として知られるケンタッキー州は石灰岩の地盤に覆われ、バーボンを仕込む際にも石灰岩で濾過された「ライムストーンウォーター」とよばれる硬度300程度の水を使うのが特徴です。

蒸留はほとんど場合、原料の風味をあまり残さない連続式蒸留機で行われます。ただし、連続式蒸留機を使っても蒸留後の原酒のアルコール度数が64~70%ほどと低いため、穀物の風味がしっかり残るのです。

原酒はコーンウイスキーを除いて、内側を焼いたホワイトオークの新樽で熟成されます。この樽の内側を焦がす「チャー」と呼ばれる独特の工程、一説によれば昔は魚を入れる樽をウイスキーの熟成に使っていたため、魚臭さを消すために焼かれるようになったとのこと。真偽のほどは不明ですが、この樽がアメリカンウイスキーの魅力である美しい飴色やバニラのような甘い香りを生み出すのに重要な役割を果たしています。

スコッチやアイリッシュウイスキーは最低3年以上熟成させるという規定がありますが、アメリカンウイスキーには基本的に熟成年の規定はありません。その自由度の高さと原料の多様さが近年のクラフトウイスキーブームを後押しし、個性的かつ革新的なアメリカンウイスキーが次々と誕生しています。

アメリカンウイスキーは連邦アルコール法で、原料の比率や製法の違いにより以下の5種類に分類されています。アメリカンウイスキーの代名詞にもなっている「バーボン」もそのうちの1種です。

①バーボンウイスキー
原料:トウモロコシが最低51%、79%まで(※トウモロコシのほか、主にライ麦、モルト(大麦麦芽)、小麦を使用)
製法:内側を焦がした新しい樽で熟成

②コーンウイスキー
原料:トウモロコシが80%以上を占める
製法:古い樽、または内側を焦がしていない樽で熟成

③モルトウイスキー
原料:大麦(大麦麦芽)が51%以上を占める
製法:内側を焦がした新しい樽で熟成

④ライウイスキー
原料:ライ麦が51%以上を占める
製法:内側を焦がした新しい樽で熟成

⑤ウィートウイスキー
原料:小麦が51%以上を占める
製法:内側を焦がした新しい樽で熟成

前述の通り熟成期間の規定はありませんが、最低2年以上熟成させたものは「ストレートバーボンウイスキー」「ストレートコーンウイスキー」という風に「ストレート」が付きます。

歴史を遡ると、もともとアメリカにやってきたスコットランドやアイルランドからの移民たちは東部のペンシルヴェニア州やヴァージニア州など寒冷な気候でも育つライ麦でウイスキーを造っていました。

しかしアメリカ独立戦争終結後の1791年に、ジョージ・ワシントン政権が税収確保のために導入した「ウイスキー税」を避けるため、まだアメリカ領ではなかったケンタッキー州にてトウモロコシでウイスキーを造ったのが紀元とされています。それを嫌った人々が、当時はまだアメリカ領ではなかった西方のケンタッキー州やテネシー州などに移住し、その土地で収穫しやすいトウモロコシでウイスキー造りを始めたことが、バーボンウイスキーの誕生とされています。

ともにバーボン文化を育んできたテネシーとケンタッキーですが、1860年代の南北戦争では敵味方に分かれます。敗れた南軍に属していたテネシーは壊滅的な被害を受け、北軍に属するケンタッキーに強烈な対抗意識が芽生えます。そして戦後、ケンタッキーの象徴となったバーボンに対抗するように、この地の蒸溜技術者たちの手で“テネシーならではのウイスキー”が育まれていきました。
このため、今でもテネシーの造り手たちは「バーボンではない、あくまでテネシーウイスキーだ」と強いこだわりをもつのだとか。

ちなみに、バーボンという名前の由来となったケンタッキー州「バーボン郡」とフランス「ブルボン王朝」は同じ“BOURBON”という綴りですが、これは偶然の一致ではありません。イギリス本国との間で起きたアメリカ独立戦争の際、当時ブルボン王朝だったフランスがアメリカ側を支援したため、そのことへの感謝の印としてケンタッキー州に「ブルボン(英語読み:バーボン)郡」として地名を残すことになりました。バーボンはこの地で生まれたウイスキーなのです。

酒により社会の乱れが見え始めると、飲酒に批判的な考えを持つ敬虔なピューリタンたちが中心となって禁酒運動を開始。もともと宗教的・道徳的な精神を重んじるアメリカの法律ですが、1920年にはついに憲法でアルコール飲料の製造・販売・輸送が禁止され、ケンタッキー州のバーボン蒸留所の半分が廃業に追いやられました。

しかしこの禁酒法の誕生により、自由を愛するアメリカ国民たちはかえって密造された酒(ムーンシャイン)を飲むようになります。これまでグラス1杯のワインを嗜む程度だった人までもが、強い蒸留酒に手を伸ばすようになったのです。

結果として、政府は税収を失う一方、ずる賢いギャングたちが密造酒の製造と密輸で巨万の富を得るようになると、禁酒法は明らかに失策とされ1933年に撤廃。アメリカ国民は、酒場でウイスキーを楽しむ喜びを取り戻しました。

バーボンとテネシーウイスキーには、どのような違いがあるのかというと

「バーボンウイスキー」と名乗るためには、次の4つの条件を満たす必要があります。
(1)アメリカ合衆国内で造られている
(2)原料となるトウモロコシの比率が51%以上
(3)アルコール度数は蒸溜時で80%以下、瓶詰め時で40%以上
(4)中身を焦がした新品のオーク樽で2年以上熟成

条件(1)からわかるように、バーボンには特に生産地の規定があるわけではなく、バーボンの原料比率と製法を守ったウイスキーは「バーボンウイスキー」と名乗ることができますが、実際は約9割までがケンタッキー州で生産されています。

テネシーウイスキーの定義は、上記に2つの条件が加わります。
(5)テネシーウイスキーはテネシー州で造られることが法律で定められています。ただし製法としてはバーボンの条件を満たしているため、バーボンウイスキーにも分類できます。
(6)蒸留後の原酒をサトウカエデの炭で濾過する「チャコールメローイング製法」があります。

チャコール・メローイング製法とは、蒸溜したウイスキー原酒を8〜10日間ほどかけてテネシー産のサトウカエデの炭でろ過する製法のこと。これにより、雑味が取り除かれるとともに、サトウカエデ由来のまろやかな風味が加わり、ウイスキー本来のフルーティな風味を引き出し、なめらかな口当たりを実現しています。

実は、単独銘柄として世界で1番売れているアメリカンウイスキーはテネシーウイスキーの「ジャック ダニエル」。スローガンである“IT’S NOT BOURBON. IT’S JACK.(バーボンではない。ジャックだ)”に、単に「バーボン」とひとくくりにされたくはないというテネシーウイスキーとしてのプライドが感じられます。
もう一本、テネシーウイスキーの代表銘柄を挙げるなら「ジョージ・ディッケル」でしょう。テネシーウイスキーの特徴であるチャコール・メローイング製法に一工夫を加えて、サトウカエデの炭の上に羊毛の毛布を敷いてろ過する独自製法を用いるとともに、トウモロコシの比率を84%まで高めたことによる強い甘味が特徴です。
また、今ではウイスキーの飲み方の定番となっている「オンザロック」は、もともと冷たい飲み物を好むアメリカが発祥。ロックグラスが重く大きいものが多いのは、アメリカ人の手に合わせて作られたからと言われています。

1969年にバーボンの輸入が自由化されて以来、ここ日本でもさまざまなアメリカンウイスキーが楽しまれています。

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