①カビ(糸状菌類)
ベト病(英 Dowmy mildew 仏 Mildiou)
病原菌:Plasmopara viticola
19世紀後半に、アメリカから輸入されたブドウ樹がこの菌に感染しており、ヨーロッパに持ち込まれ、1878年最初の被害が発見された。湿度の高い地域で繁殖し、花や葉、果実に白いカビ状の胞子が形成され、落花、落葉、落果させる。ベト病はヨーロッパ中に被害をもたらしたが、硫酸銅+生石灰+水の混合溶液が防除に有効と判明した。この溶液は、19世紀後半にボルドー大学の教授がメドックのブドウ畑で試験をして効果を確認したため、ボルドー液(仏 Bouillie Bordelaise 英 Bordeaux Mixture)と呼ばれる。現在でも、ベト病の防除薬として、広く使われている。
灰色カビ病(英 Grey mold 仏 Pourriture grise)
病原菌:Botrytis cinerea
ボトリティス・シネレアと呼ばれるカビが、湿度の高い環境下で、花穂、葉、果房に発病し、灰色のガビを生じる。黒ブドウではアントシアニン色素を破壊し、赤ワインの着色不良を生じる。また、別なカビが共生するため、不快なカビ臭をつける。この病害は、除葉を行い果実周辺の風通しを良好にするなどの栽培管理が大切となる。防除にはイプロジオン水和剤などが使用される。
これに対し、ボトリティス・シネレアが、乾燥した環境で、熟したブドウにつくと、菌糸が顆粒表面を保護しているロウ質を溶かし、果皮に穴をあける。果皮の穴からブドウ果に含まれる水分が蒸発し、エキス分(糖分等)だけを残し、樹についたまま干しブドウ状態になる。これを貴腐(英 Noble rot 仏 Pourriture noble)といい、極上甘口ワインの原料となる。
ウドンコ病(英 Powdery mildew 仏 Oïdium)
病原菌:Erisiphe necator
北アメリカ由来のカビで、1850年ごろにヨーロッパに伝播した。若枝または生育中のブドウ果粒が白い粉状の胞子で覆われてしまい、顆粒の表皮生長が妨げられるが、果肉は成長し続ける。そのため、ブドウ果粒が裂かれ、顆粒はミイラ化あるいは腐敗の原因となる。
防除には開花時に硫黄を含んだ農薬を散布や、ベンレート(ベノミル)剤による殺菌を行う。
晩腐病(Ripe rot)
病原菌:Glomerella cingulata
収穫期のブドウ果実を侵し腐敗させる病害で、その被害は急速に進み、日本ではブドウ病害被害中最大のもの。
特徴はブドウ果実が軟化する頃から多く発病し、完熟期に被害は最大となる。初期は淡褐色の病斑が果皮表面に現れ、しだいに紫褐色となり、果実は腐敗・ミイラ化する。発病した果房付近の枝などで年を越し、翌年、病原菌は雨によって無数の胞子を拡散し、葉や枝、幼果に付着後、菌糸となって顆粒組織内に侵入して繁殖を開始する。その後の降雨により再び胞子は拡散し、次第に病害は拡散していく。
防除には、罹病結果母枝や巻きひげを園内から取り除くなどで、病害菌をできる限り除去しておくことが大切である。また休眠期にベンレート(ベノミル)剤等を散布することも有効です。
②その他の病虫害
ウイルス病
ウイルス病は、ウイルスが植物、動物、昆虫、バクテリアなど様々な生物に取り付き、糖度が上がらなくなる、葉が本来の機能を失う、などの重大な被害をもたらし、枯死に至る場合もある。ブドウのウイルス病は、現在約50種類以上が確認されているが、未発見のウイルスもあると推定される。ブドウ・リー・フロール(葉巻病)、フレック、コーキーバックなどが代表的である。対策として、成長点培養(苗木の茎の先端組織を切り取り、無菌状態で成長させたのち、畑に移す方法)によるウイルスフリーのブドウ苗の育成が行われている。改植の際には、ウイルスフリーであることを確認してから、ブドウの苗木を増殖させることが望ましい。ウイルスは、選定などの際に剪定ハサミを経由して感染が広がるため、ウイルスの症状が現れた樹を選定したハサミで、健全な樹を選定することは避けるべきである。なお、ピアス病はピアス病菌(Xylella fastidiosa)という細菌による病害です。
フィロキセラ(Phylloxera、ブドウネアブラムシダクティラスファエラ ヴィティフォリエ Dactylasphaera vitifoliae)
北米大陸原産の1mmほどの大きさの昆虫で、19世紀中ごろにアメリカから輸入されてたブドウの苗木に幼虫が付着して、ヨーロッパに伝播した。植物の根や葉に寄生し、樹液を吸って成長するため、ブドウ樹を徐々に弱らせ、数年かけて枯死させる虫害である。成虫になっても、大きさは1mm程度とあまり大きくならない。成虫には、羽のあるものとないものがいる。対策としてフィロキセラに耐性を有する北米系種(V.riparia、V.rupestris、V.berlandieriに加えてこれらの交雑種など)を台木とした接木苗が用いられる。
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