クローンとは、一つの個体(細胞)が無性生殖(体の一部から新しい個体を作る)によって増えた個体群(細胞群)のことで、親と全く同じ遺伝子を持ちます。
ブドウ樹に関して言うと、通常、親木から取った枝を挿し木することでクローンを作ります。
クローン・セレクション(Sélection clonaleセレクシオン・クローナル)
ブドウは種子ではなく、挿し木で増やすのが一般的です。
種子で増やす場合は、低い確率ではありますが、めしべにほかの品種の花粉がつき、性質の異なる苗(実生苗)になる可能性があるからです。これに対し、枝はブドウの樹の一部なので、これを挿し木して作った苗は、親株と同じ遺伝子をもつクローンとなるので、親株の特徴を安定して現し出すことができるからです。
クローン・セレクションとは、一つの畑の区画を1つのクローンで統一する選抜方法です。
ブドウは比較的突然変異を起こしやすい植物で、大きな変異を起こしたものは別の品種として認識されますが、同じ品種の中でも小さな変異を起こしたものが存在します。挿し木苗でも、挿し木の穂を取る枝が突然変異を起こすことがあるため、挿し木を繰り返すうちに少しずつ遺伝情報に違いが出てきます。ピノ・ノワールを例にとれば、アントシアニン色素の合成に関する遺伝子に変異が生じたものがピノ・グリやピノ・ブランで、これらはピノ・ノワールとは別な品種として認識されています。
これに対し、ピノ・ノワールの範疇に入りますが小さな変異を生じた株があります。苗を見ただけではわかりにくいので、同じ条件で数千株を長い期間育て、色の濃い株や顆粒の小さい株、病気に強い株などを選抜し、それを挿し木で増やしたものがクローンです。通常クローンは番号をつけて識別されます。ピノ・ノワールではディジョン・クローンと呼ばれる一群に含まれる115、777などが知られています。
マサル・セレクション(Sélection massaleセレクシオン・マッサル)
「一つの区画に同じ遺伝子の株のみが植えられると多様性が失われる」という考えから、クローン・セレクションに対し、自分の畑の中で好ましい性質の株を残していく方法が取られることがある。これをマサル・セレクション(集団選抜)と呼んでいます。
マサル・セレクションは畑の個性と遺伝子的多様性を大切にしています。
実際には、ブドウ畑で一つ一つの株を観察し、色づきが良い、樹勢が安定している、顆粒が小さい、バラ房、などの指標で評価し、その畑を改植する際に、評価の高かった複数の株から枝を取り、苗を作って植える。
自分の畑の環境下で、性質の良い株を選んで、複数残す形をとるため、クローン・セレクションに比べると、遺伝子の多様性が見込めるが、当該区画にクローン選抜された苗が植えられている場合は、区画中が同じ遺伝子の株であるため、マサル・セレクションによる遺伝子的多様性の保持は見込めない。尚、複数のクローンが一区画に存在するということは、それぞれ育ち方やブドウの収穫時期に差が生じる可能性が高く、より厳しい畑の観察やメンテナンスが必要となってきます。
台木用ブドウの概要
①フィロキセラ対策
19世紀のブドウの三大病虫害(ベト病、うどんこ病、フィロキセラ)のうち、ベト病とうどんこ病はガビによる病気のため、ガビを予防する薬剤を開発することで、被害は沈静化しました。しかしフィロキセラは土の中のブドウの根に対する虫害のため、直接フィロキセラの幼虫に薬剤をかけることが出来ず、対策は難航を極めました。フランス政府は対策調査委員会を組織し、モンペリエ大学のJules Èmile Planchon博士をアメリカに派遣し、アメリカ産ブドウのV.riparia、V.rupestris、V.berlandieriの根に、強いフィロキセラ耐性があることを発見しました。これらを台木とし、ヴィティス・ヴィニフェラの枝を穂木として接ぎ木した苗を植えることでフィロキセラの被害は沈静化していきました。
②台木品種の交雑
3大大樹原種の特徴は
リパリア種…湿った土壌に強い、早熟性、収量の少なめ、挿し木の際に根が出やすい。石灰質土壌に弱い。
ルペストリス種…乾燥土壌に強い、晩熟性、収量多め、石灰質土壌に弱い。
ベルランディエリ種…乾燥土壌に強い、石灰質土壌に強い、挿し木の際に根が出にくい。
リパリア種とルペストリス種はフィロキセラ耐性には強いものの、石灰質土壌に弱く
ベルランディエリ種は、石灰質土壌と乾燥した土壌には強いが、挿し木をしても根が出にくく、苗を作りにくいという欠点があります。
これらの品種をクローン選抜し交雑して良い性質をあわせもった台木が現在広く使われています。
穂木であるヴィニフェラ種との接ぎ木の成功率を上げるために、台木の3原種にヴィニフェラ種を交雑した台木もあります。有名なものとしてはAXR1という台木で、ヴィニフェラ種のAramonとルペストリス種を交雑したもので、Aramon、X(かける)、Rupestrisの頭文字をとって台木の名前となっています。
1879年にリリースされた台木で、当時からフィロキセラ抵抗性が低いことが知らされていたが、ヴィニフェラの遺伝子が入っているために、ヴィニフェラの穂木との接ぎ木の成功率が高く、カリフォルニアで広く使われました。1980年代にバイオタイプBと呼ばれるフィロキセラの出現によって、カリフォルニアではAXR1を使ったかなりの広さの畑が改植を余儀なくされました。
3309…リパリア種×ルペストリス種
中程度の乾燥土壌に適している、穂木との相性良し、樹勢弱め。
101-14…リパリア種×ルペストリス種
根は浅め、やや湿った土壌を好む、穂木との相性は良い。
SO4…ベルランディエリ種×リパリア種
湿潤な粘土土壌を好む、樹勢は強め。
5BB…ベルランディエリ種×リパリア種
湿潤な粘土土壌を好む、樹勢強い。
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